さっきまでの雨が激しさを増し、アレンに容赦なく打ち付けていた。
季節外れの雨はその冷たさも容赦なく、
呆然と佇むアレンの体温を、嫌がおうにも奪っていった。
口元から零れ落ちる吐息が白く弾む。



「ねぇ、そこのキミ、そのままじゃ風邪ひくよ?」



背後からかかった声には聞き覚えがあった。



「……マナ……?」



勢い良く振り返ると、ぼんやりと霞んだ瞳の向こうに映る姿を探す。



「……?……キミはマナのことを知ってるの?
 見たところ修道士様のようだけど……」
「……貴方は……マナじゃ……ないんですか?」



にこりと微笑むその仕草には、懐かしい面影があるというのに、
その男性は、アレンを知っているようには見えない。



「……ですよね……。
 マナがここにいるはずがない。
 あの時……僕が……」



そう言いかけて、ふと肩に触れた男の手の感触に驚く。
それはまさしくアレンが覚えているマナの手そのものだった。
驚いて息を呑む彼に、男は笑みを絶やさぬまま優しく答えた。



「そんなに僕はマナに似てる?
 このままじゃ本当に身体を壊しちゃうよ?
 とりあえず何か暖かい飲み物でも飲まないかい?」



冷え切った様子のアレンを見て、男が提案する。
話しぶりからみて、彼がマナでないことは明らかだ。
が、世の中にこれほどうりふたつな人間がいるとは考え辛い。
アレンはそのわけが知りたかった。


男の促しに軽くうなづくと、
彼はほっとしたように小さな溜息を漏らす。



「よかった。
 こんな雨の中、だまって外に立っているなんて普通じゃないよ。
 何があったかはわからないけど、
 こんな可愛い修道士さまに倒れられたんじゃ寝覚めがわるいからね。
 すぐ近くに僕の家があるんだ。
 大したもてなしは出来ないけど、暖かいミルクぐらいならご馳走できるよ?」
「……はい……
 じゃあ、お言葉に甘えて……」



アレンは男のことが知りたかった。
彼がマナと全くの無関係だとは思えなかったし、
マナの生家があるといわれたこの街で、
マナとうりふたつの人間に出会えたことが、ただの偶然とは思えなかったからだ。


前を歩く男の背中を見詰ながら、
その歩き方まで似ている事に、アレンは苦笑を漏らす。
覚えているその背中よりも、目の前の男の背中が小さく思えるのは
アレン自身があの頃よりも成長したからであって、
おそらく目の前の男は背丈も身体の肉付きさえ、
生きていた頃のマナと同じなのだろう。


思わず抱きついて泣き出してしまいそうな衝動を堪えながら、
アレンは男の後姿を見詰ながら、黙々とその後を追った。







       
いざな
男がアレンを誘ったのは、古い洋館だった。
建物さえ古いがその造りは立派なもので、
一昔前ならお城と言っても差し支えないほどの大きなものだった。
古いゴシック調の造りが、その建物の歴史を物語っている。



「……あの……ここは……?」
「ああ、古いけど、一応僕の家だよ。
 中に家内がいるから、何か身体の温まるものを作ってもらおう」



この立派な家が……?


今までのマナとの共通点とは似ても似つかない立派な家。
今はどうか知れないが、以前は栄華を極めていたに違いない。
貧乏の極地を生きるようなマナとの生活。
そこからは、この家での生活など想像もつかない。


促されて中に入ったアレンは、長い廊下を進むと応接間らしき部屋に通された。
濡れたコートを徐に脱ぐと、示された椅子に腰掛ける。
すると、部屋の奥から誰か別の人間の声がした。



「あら、お客様ですか?」



声を聞いて、アレンはペコリと頭を下げる。
それを迎えるように、声の主は儚げな笑みを浮かべた。



「まぁ、これは可愛らしい修道士さま……
 たいしたおもてなしは出来ませんが、今何か温かいものを準備いたしますね」
「あ…ありがとうございます」



その声の主は、一見とても綺麗で、上品な香りを身に纏った貴婦人だった。
その笑顔とは裏腹に、身体から発せられる気はとても希薄で、
彼女の身体があまり健康ではないことを表していた。


少しして運ばれてきたものは、暖かいスープとパンだった。



「本当なら豪華なご馳走でもてなしたい所なんだが、
 ご覧のとうりの貧乏貴族なもので、すまないな……」
「いっ、いえっ、とんでもない。
 僕の方こそ、いきなりお邪魔してしまって、ご迷惑ですよね……」
「とんでもない。
 マナのことを知っている人に出会えるなんて、思ってもみなかったです。
 ……ところで、キミはどこでマナに会ったんだい?
 彼は元気で頑張っているかい?」



くったくのない笑顔に問いかけられて、アレンは答えに詰まる。
目の前のこの男は、マナの死を未だ知らないのだ。
自分とマナの関係を何処まで話したものかと、
アレンは考えを巡らせた。
そして、目の前のこの男性がマナとどういう関係なのかを知りたいと思った。



「あの……貴方は……マナとどういう間柄なんでしょう?」
「え? ああ……僕かい?
 そうだよね、いきなり僕の方が質問するのも不思議だよね。
 僕は……マナの……」



―――― アレ ――――?



男が自分の素性を話そうとしていると、
いきなりアレンの視界が揺らいだ。
あっという間に天と地が入れ替わり……


アレンは椅子から滑り落ち、床へと転げ落ちた。
これからの悪夢の世界へと堕ち入るように……





 




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≪あとがき≫

長らくお待たせいたしましたm(_ _ ;)m
シリーズ再開です♪
マナにうりふたつの男は一体何者なのか?
そしてアレンはどうしちゃったの??
話はまだまだ続きます。
この後の続きはさくさくとUP致しますので、
是非また遊びにいらしてくださいね〜(〃⌒ー⌒〃)ゞ















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――魂の在り処――